泣き虫だったなぁ
結婚前のまだ婚約とかをしていなかった、まだ家内が単なる彼女でしかなかった頃。
今と変わらずにお喋りだったのだが、
更にたちの悪い事に泣き虫だった。
ちょっとした言葉尻の言い間違えをしただけなのに、直ぐに表情を曇らせてはピーピーと泣き出していた。
いやいや、可憐で可愛い女の子ならばともかくとして、
自慢ではないのだが、彼女は可愛いなんて感じでもなく、況してや綺麗とは言い難い女だったんだ。
いや、ブスだなんて事を俺は言ってはいないし、認めやしないけれど。
そんな彼女がぽろぽろと涙を流して泣き出してしまうのには、正直言って困り果てた。
明るくて楽しく、一緒にいると暖かい気持ちにさせてくれる朗らかな部分が最大の魅力なんだと思っていた俺に取って、
泣き虫な部分はかなりのマイナス要素でもあったんだ。
しかしながら、
二人で結婚をしようと決めて、婚約をしてからの後の彼女、家内はそれ以来一度も泣いた事がないんだ。
それは、俺の前で泣いている姿を見せないだけなのか、
隠れて泣いているのかは俺には分からないのだが、
家内はいつも明るくお喋りな女なんだ。
ドキッとする様な女の美しさや、ムラムラと欲情を駆り立てる様な魅力なんかを持ち合わせてはいない女なんだけど、
日々を重ねて数十年もの年月を伴に支え合い寄り添いながら生きて行く上で、
女としての美しさや色気などは、確かに無視は出来ない要素ではあるのだろうけれど、
俺の家内は、それ以上に大切な、ひるぎない、めげない明るさ、朗らかさを持ってる事が何よりもの魅力なんだとつくづく感じてるんだ。
もうかなり昔にはなるが、
付き合ってた頃の事を振り返りながら、
そんな泣き虫だった頃の家内を懐かしんだ上で、
そう言えば、結婚してから泣かなくなった理由を聞いた事があったんだ。
「ねえ、なんで泣かなくなったの?」
ってね。
そしたら家内は、
「泣いてまで解決したいって思う様な事がなくなったんじゃないのかな?
つまり、貴方の前で泣くのがバカらしくなったんだよ。」
って、言ってた。
まっ、もうお互いにいい歳なんだから、女房に泣かれて、頭をポンポンする様な構図がマンガにすらならない悲惨な光景に見えるのは言うまでもない状況なんだよな。
どうでもいい、下らない独り言でした。