敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

ゴミ箱 3




腕に刺さっている針から伸びるチューブを辿れば、そこには、「透明になる薬」と書かれた点滴が吊り下げられていた。

あぁそう言えば、確かに針の刺してある左腕だけが心なしか薄くなって来ている様に見える。

「そうか、私はこうして段々と影を薄くしながら透明になって行くんだな。」と、妙な安堵感に包まれながら、ベッドの周りに集まってくれている家族や友人のやるせない笑顔を眺めていた。

やがて、枕元で響いていた不規則で気紛れな電子音がフラットで一定の音量に変わった途端、私はみんなの視線の向いている場所から、ふわりと浮き上がる事ができたんだ。

「やった、とうとう私は透明人間になれたんだ。

どう?見て見て、って、見えなくなったんだから分からないよね?」

嬉しくて嬉しくて、ベッドの方を見詰めている母の背中に抱き着いたんだ。


ふっと、母の体をすり抜ける私の体。

「あれ?あれあれ?」

通り抜けた母の体の向こう側にいたのは、ベッドの上で眠っている私がいる。

「ねえ、お父さん。」

振り向きざまに父の胸元に飛び込んだんだけど、父もまた私の体を受け止める事なく、すり抜けてしまった。




そう言えば、母の体をすり抜けた時も、たった今、父の体を通り抜けた時にも、

ベッドで寝ている私に向けられている二人の気持ちが読み取れた様な気がしたけど、、、


えっ?違うよね?

まさか、二人してそんな、




真由美はどうなの?



武志はどう思っているの?




やっと、念願の透明人間になれた私を、

そんな風に思っていたの!




ええーっ、

こんな事なら、今すぐにでも死んでしまいたい。



「3時43分、ご臨終です。」

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