敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

過ち-1


今まで、何が見えていたのだろうか?

すっかりと結露してしまった窓ガラスを手の平で一掃して、外の風景を改めて眺めて見たものの、そこから見える景色は、重苦しい曇り空と寂れた冬木立しか見えやしなかった。

いったいいつ頃から、俺の生き方はこんな景色になっちまったんだろうか。

確か、新緑と草花の間を薫風が漂っていた筈なのに。



そこにいた彼女は、

見えない光を追いながら、

聴こえない囁きに耳を傾け、

語れない過去を引き摺って、

届かぬ夢に手を伸ばし、

歩めぬ足に苛立ちながら、

冷たい泥沼で、

独りぼっちで佇み、

ただただ涙だけを

流していた。


重く湿った風が霧を切り裂き、

頬を伝う雫を撫でて、

苦い哀しみの薫りを運んだ。


閑な水面を漂い、

木々の梢に行く手を遮られ、

淀んでいた空気は、

その女の哀しみの色で

蒼く濃い藍色に染まっていた。


微かに涙の薫りがした。

哀しみの色が覗いていた。

僅かな逆光を背負い

動かぬシルエットの彼女は、

疲れ果てて

その顔に表情は失せていた。


俺になにが出来ますか?

声は届いた筈なのに、

その影は揺らぎもせずに

藍を濃く佇んでいた。


霧を分け差し伸べた手に

触れた肩は震えながらも、

まだ微かに体温は残されていた筈。

掴む程にか細い肩は

今にも折れてしまいそうな

華奢な儚さが息付いていた。


言葉は結ばれた。

言葉だけは辛うじて行き交った。

しかし、言葉だけでは

何一つ救えなどしなかった。


沼は冷たく固く女を閉じ込め

相変わらず霧は視界を遮り、

俺の動きさえも拒むかの様に

纏わり付いてくる。


冷え切った躰は震えていた。

肩は大きく震えて

何かに怯えて固く

閉じてしまっている。

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