美人さん
俺の立場からすれば彼女はなんの為に、そんなに念入りにお化粧をして髪の毛をセットして着飾って、ミュールの指先にまで彩りを添えて、完璧になろうとするんだろうな?って思うんだよね。
だって、さっきまでバサバサの髪の毛で、枕を頭の上に乗っけてだらしなくウダウダしてたじゃんよ、それじゃ別人じゃん。
いったい、誰の為に綺麗になろうとしてるの?
素の彼女がウダウダして、我が儘を言いたい放題で駄々を捏ねてる方が絶対に可愛いのにな。
鎧を着けられて、よそ行き武装されちゃうとさ、俺の彼女感がなくなって触れられなくなっちゃうんだよ。
他の男の視線を集めちゃって、気分が良いのかも知れないけど、俺の視線も他の男の視線と同じになって、俯瞰で眺めちゃうよ。
今朝、隣ですやすや寝てた女なのに、手を繋いじゃって良いんだろうか?って、躊躇っちゃうんだよ。
あのダボダボのだらしないパジャマで歯磨きしてた彼女が、2メートルくらいは近寄り難いオーラを放って俺を拒絶してる雰囲気を出してるんだ。
なんなんだよ、そんなに変身するなよ。
真っ赤な唇じゃ、ケラケラと高い笑い声は出せないだろ。
高いヒールだとぴょんぴょんと飛び跳ねてムクレる事は出来ないよな?
それでも俺の彼女なのかよ。
俺は、こんな女は知らないぞ。
寄り添って隣なんか歩けやしない。
なんだよ、勝手に遠くに行きやがってさ。
近寄って来るんじゃねぇ~よ。
気安く話し掛けるんじゃねぇ~よ、このクソ美人めが!
お前が綺麗に成れば成る程、俺は惨めになるんだよ。
分かってんのか!
そこの美人さんよ。
その姿で居酒屋に入れんのか?
焼き鳥を食えるのか?
芋焼酎グビグビ飲んで、酔っ払える積もりなのか?
バカヤローが、こんなにお洒落で素敵な女なんて連れて歩けると思ってるのかよ。
ふざけんなよ。
俺を舐めんなよ、しっかりとイジケて他人になってやるんだからな。
だからって、その格好で素に戻るんじゃねぇ~よ。
似合わねぇ~だろが!
高飛車な態度で澄ましてろや。
どこぞのファッションモデルさんは気軽に喋り掛けるなよ。
一人で気取って歩いてれば絵になるんだから、勝手にやってろ。
んだよ、人前で抱き着くんじゃねぇ~よ。