敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

小夜 1




よせばいいのに、頑張ってちょっと長めの、かと言って小説なんてとても言えやしないお話しを書き出してみました。

起承転結などと言うストーリー的な展開もありませんし、誤字脱字のオンパレードで多少の苛つきを感じてしまうのかも知れませんが、忍耐力に自信が御座いましたらどうぞお目を通して見て下さい。






中学一年の時に、生まれて始めて彼女と呼べる存在ができた。

切っ掛けは、極単純な理由だった。


俺の住んでいる場所は、野山に囲まれてはいないけど、そこそこの田舎町で小学校は、各学年一クラスしかない小さな小学校だった。


つまり、小学校に入学してから卒業までの六年間にクラス替えなどと言う顔ぶれの変化がなく、転校生以外は六年間を同じ教室で学び育って来たのだ。

言わば、クラスメイトとは、幼馴染みの様な、遊び友達の様な存在だった。


そして、中学校へと進学をしたら、突然のマンモス中学校で、クラスメイトは皆ばらばらにばらけてしまい、同じ小学校出身者はほんの3~4人しか居ないと言う心細さ。

とは言え、遊び盛りの中学生である。

一ヶ月も経たない内に、同じクラス内に友達も出来たり、二ヶ月もすれば、他のクラスとも同じ小学校の友達伝いに新しい友達繋がりなんかも出来始めたりしていた。


そんな、マンモス中学校の新生活に馴染み始めた三ヶ月も経たない頃の事だった。


同じ小学校だった、とある女子が放課後の人影が疎らになった教室の隅っこで突然俺に近付いて来て、俺に手紙を渡してくれたのだ。

その女子とは、なんと小学校の頃に好きだった、あの小学校の中では人気ナンバーワンのめっちゃ可愛い女の子だったのだ。

ドチャクソ緊張しまくった。


だって、中学で同じクラスになれたとは言え、相手は女子で、しかもめっちゃ可愛い。

おな小だから、それまでは普通に話しは出来てはいたものの、人影が少なくなった教室の隅っこで、隠れる様に手紙を渡されるなんて、パニックに陥って当たり前のシチュエーションだ。


「こんな場所でごめんね、小夜から手紙を預かっちゃってね、貴方にどうしても渡して欲しいって、これ、はいっ。」と。

可愛いらしい柄の絵が描かれた便箋を渡されたのだった。


「ああ、確かに小夜は市川さんとはずっと仲良しの友達だったよね。」

一番可愛い市川さんは、余り可愛いくない小夜とは親友関係だった。

そして俺は、その可愛いくない小夜とは何故か気が合い、小学生の頃はずっと仲良しだった女子だった。

しかし、小夜とはマンモス中学校ではクラスが別々になり、この三ヶ月間はほとんど顔も見掛けない様になっていたのだった。


「なんなの?これ。」

市川さんは、なんとも意味深な微笑みを浮かべながら、上目遣いで俺を見ながら、

「返事が欲しいんだって。」とだけ良い残して教室を出て行ってしまった。


(なんなんだよ、市川さんが俺に話し掛けて来るから嬉しかったのに、小夜からの手紙かよ。

てか、市川さんはやっぱり可愛いよな。

同じクラスになれてラッキーだぜぃ。

じゃなくて、なんだよ、小夜からの手紙ってさ、別に用はないぞ、あの子には。)


手渡された手紙をカバンの中に乱暴に押し込んで、俺は家に帰ったのだった。


好きな女の子から貰ったと言うだけの、小夜からの手紙だったが、あの市川さんが俺に手渡してくれたと言う理由だけで何故か気持ちが高揚していた。


現実には、その手紙は小夜が書いた物であって、その内容に関しては、いくら親友とは言え市川さんはおそらく関与していないであろうとは思ってた。


しかし、男とは悲しい生き物。

好きな女の子から手渡された他の女の子からの手紙なのに嬉しかったんだ。



手紙には、

「今まで、ずっと毎日一緒に過ごして、当たり前に側にいて、いつでも話しが出来ていたのに、中学に入って俺が居ない教室で過ごしているのが寂しくてしょうがないので、放課後にでも一緒に帰りながら話しがしたいです。」の、様な内容が記されていた。


もしかしたら、これはラブレター的な?

あの小夜が、俺を好きだと言ってるのか?

複雑な心境だった。

ほぼ可愛いくない。

女子ではあったが、女としての魅力を彼女に感じた事はなかった。


確かにスタイルは良くて、おっぱいもかなり目立ち始めてはいたが、そんな目では見た事はなかった。


要するに、身近すぎる女友達。

言わば、幼馴染み。

だとも言えなかった。

何故なら、小学校では毎日6年間を一緒に過ごして来たと言うのに、離れ離れになったからと言って、俺の意識の中に特に彼女の存在は全く居なくなっていたのだから。


全くもって恋愛対象ではなかった。


なので俺は、貰った手紙がラブレターもどきの内容であったにも関わらず、返事を書く気にはなれずにいたのだった。

俺に取って、その時点での彼女の存在はその程度でしかなかったのだった。


返事も書かずに何のリアクションも起こさずに数日をやり過ごした放課後だった。

校門を出たばかりの小路を4~5人でバス停へ向かっている女子が俺の前を歩いているのが視界に入った。


明らかに、市川さんと小夜とその取り巻きの軍団だった。

「ヤバい」


今日の俺は一人ぼっちだった。


なにぶんにも、女の子には持てた事のない醜男の俺は、4~5人の女子と渡り合うだけの話術や社交性などは持ってはいなかった。


一瞬、足がすくみ立ち止まり、あわよくば物陰ににでも隠れてしまおうかとも考えた。

だがしかし、時既に遅し。

市川さんが俺に気付き、指を指して小夜に何かを話している。

その直後に、回りの取り巻きは足早に先を急ぐ様に去って行ってしまった。

小夜をポツリと残し、市川さんが俺に向かって、すたすたと近寄って来る。

バクバクと心臓が高鳴って、俺は逃げてしまいたくなっていた。


「ねえ、一人で帰るんでしょ?

だったら、小夜と一緒に帰ってあげてよ。」


まぁ、確かに六年間も同じ教室で、しかも、そこそこに、いやかなり仲良しだった小夜なので怖くはなかった。

だが、あの内容の手紙を、あの小夜が書いたんだと思うと、小夜も女なんだなと、改めて意識をせざるを得なかった。


「あっ、別に良いけど」

微妙な緊張感で少し足がすくんでいた。


極めて自然に返事を返した積もりだったが、明らかに俺は動揺していた。


「あのさ、市川さんも一緒に三人で帰らない?」


どさくさ紛れに出て来た言葉だった。

小学生の時からの憧れの可愛い女の子だった市川さんが、これ程までに親しそうに話し掛けてくれる様な事は、今までにあまりなかった気がしたのだ。

なので、ともすれば、この小夜との出来事を切っ掛けにもしかしたら、などとゲスな考えが頭の中をよぎったのだった。


「何言ってるのよ、小夜の気持ちを考えて上げてよね。

ちゃんと話をして、小夜の気持ちを受け止めて上げて欲しいのね。

私は、違う道を歩いて帰るから、小夜と二人で帰ってあげてね。」


そう言うと市川さんは、小夜に向かって手招きをしたのだった。





暫くは、変な緊張感が二人を縛っていた。


小学生の時には、全く感じた事のない距離感を作り出していたのは、まだお互いに見慣れていない中学校の制服姿と、ほんの数ヶ月間の空白期間に少し伸びた俺の身長のせいだったのかも知れない。


通学に使っていたバス停までは、混み入った住宅街の中を歩いて15分ほどの距離にあった。

しかし、マンモス中学なだけあって、下校時のその間帯のバス停には、同じ学校の生徒が長い例をなしてバスを待っている。


当然の事ながら、その例の中には同じ方向に帰る、同じ小学校だった、かつてのクラスメートが沢山居る筈なのだ。


別に、俺と小夜が二人で一緒に並んでそこに現れたからと言って、その光景に違和感や疑問を持つ者などはいないはずなのだが、そこは、やはりお互いの意識下に男と女としての立場の違いを学生服姿が隔てていたし、

当然の事ながら、ついさっきまで一緒だった市川さん達ともはち合わせする事は必然だった。


このタイミングで彼女達と、また再び顔を合わせてしまうのは、そこに作られるであろう微妙な雰囲気はどう考えても耐え難い気恥ずかしさの真っ只中に立たされてしまうのは安易に想像が出来てしまう。



バスに乗ってしまえば、15分余りの距離ではあったが、その距離を歩いて帰るとなると1時間以上の時間を要する。


いや確かに、小学生の時には小夜と二人っ切りでそれ以上の時間を過ごした事など珍しくもなかったはずなんだと、俺はふとその時に思ってしまっていた。

なので、

「歩いて帰えろうか?」と、

何気に言われた言葉に対して、

「そうしようか」と安易に応えてしまったのだった。



「背が少し伸びたよね。」

バス停ではない徒歩での帰り道へ向かう分岐路を何も考えずに選択していた。

「んな分けないだろ。」

意外にも、なんの違和感もなく普通の会話が始められた事に自分でも変な安心感を感じていた矢先。


小夜が突然、立ちはだかる様に俺の目の前に立って何かを言おうと真顔になって向き合ったのだった。


ボックスプリーツの裾が風に揺らめいて俺の膝にさわさわと触れる様な距離だった。


間近過ぎる距離にたじろいでいる俺にお構いも無く小夜は、少しの間はキョロキョロとキョドった視線をあちこちに向けていたのだった。

余りの近さに、俺は伸びた身長でも比べ様としているのかと思ったのだが、そのキョドっていた視線をおもむろに上目遣いに変えて、今度は何かを決心したかの様な表情をしながら大きく息を吸った。


「まさとが好き」


生え際が綺麗なカーブを描いて額を隠していた前髪が、一陣の風に煽られて真横になびいて、その眼差しがストレートに小夜の気持ちを伝えて来ていた。


わずか20センチの二人の距離。


見慣れていた筈、珍しくもない筈。

小学校の入学の時から、ついこの間まで、ぼぼ毎日の様に顔を合わせて育って来た筈の顔が始めて女に見えた瞬間だった。





続く、、、はずです。

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