敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

磯は、




遥か高みの真っ白な雲がどっしりと腰を据えて留まっている。

その下層をブチブチに千切れた軟らかそうな綿雲が形を変えながら忙しなく東に流れて行く。


今日磯は空模様の慌ただしさとは別世界の様に風が穏やかで、海面は凪いでいた。


長い磯竿と投げ竿の二本を岩場に置いたままで、何を考えるでもなく、ぼんやりと空を眺めながら二人で潮風を味わっていたんだ。


「ねぇ、餌は着けてあるの?」

傍らに置いてあるゴカイのパックを指差しながら彼女が、独り言の様な言い方で粒やいている。

「んん、餌を着けたら釣れちゃうかも知れないじゃん。」

「じゃあ、なんで餌を買って来ちゃったの?」

「その時には、なんとなく釣りがしたかったからだよ。」

「じゃあ、今は?」


岩場にぶつかる波の音が、あちらこちらで控えめに囁いて、彼女の腕がそっと俺の肩に添えられる。


「ん」


両手で頬を挟まれ、キスをされた。


「ずっと、側にいて   いい?」




ベタ凪ぎの平たい海面に、少し西に傾いた太陽がギラギラと反射して強烈なレフ板の役割を果たし、真顔で真っ直ぐに俺の瞳を見詰めている彼女の真剣な気持ちを照らしていた。




それはまるで、俺にプロポーズをしているかの様な確か気迫が込められていた。




気付けば下層の千切れ雲は、すっかりと退き、遠く高い空には余りにも白い雲が彼女の背景として眩しく光っていた。






えっと、ごめんなさい。

特に意味はありません。

昔々の荒崎での出来事でございます。


私の趣味の一つの中に、磯釣りってのがありましてね。

夢中になっていた頃には、一人で岩場に出掛けては早朝から真っ暗になるまで磯を釣り歩いていたりしたのですが、

女に現を抜かすようになってからは、磯釣りはデートの手段に成り下がり、

魚を釣るなんて目的はすっかりと失せてしまって、海辺の磯は専らイチャイチャできる隠れ蓑になってしまったんですわ。

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