敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

馬鹿な約束


思わず瞼を閉じて


その声に耳を傾けた。


速まる鼓動に、


その言葉は掻き消された。


「さよなら。」


耳に押し付けた携帯の奥底に


ゆっくりと沈み静寂が訪れる。


やっと絞り出したかすれた声で


ただ一言


「うん」と、


応えるしかなかった。


固く閉じた瞼の奥の走馬灯は、


全て笑顔なのに


震える指先は何も躊躇わずに


画面をスライドさせた。


なんだ、意外と呆気ないんだな。


長かったな。


いつも隣にいる気がしてたけど、


こうして終わってみると、


なんて味気無いんだろう。


へっ、


スマホを放り出して、


ベッドにダイブしてる姿が


見えてるよ。


無表情で枕を抱えて、


ほら、涙が出て来てらぁ


そんなんじゃ、


暫くは寝られないぞ。


手に取る様に分かるなんて、


バカだよな。


なんでだよ。


いつ決心したんだよ。


教えろよ。


水くさいよな。


なんだって話して来たじゃん。


肝心な事を相談もしないで、


勝手に決めてさ。


どうするんだよ、


この秋の温泉旅行の予約はさ


キャンセルなんかしないよ。


やっと取れた旅館なんだから。


握ったままのスマホを片手に


ブツブツと文句を言いながら、


ライン、アドレス、番号の


全ての痕跡を消した。


そう、まさかこれを本当に


しなきゃならない時が来るとは


思っても居なかった。


別れる時は、


日本刀でスパッと


一刀両断した様な別れ方をしようよ。


その瞬間までは、


それまで通りに


普通に付き合っていて、


どちらかが駄目だと決断したら、


スパッとね。


でね、


その場で全部を消し去ろうね。


約束だからね。


こんな事をなんでわざわざ


こんなに好きな人と


約束してるんだろうね。


バカだよね。


馬鹿過ぎるよね。


馬鹿過ぎだよ。


本当に、


こんな事が意外に冷静


出来るなんて、


馬鹿なんだよな俺。


たった今、別れた恋人。


今は、赤の他人との約束なんて


律儀に守ってさ。


誰に自慢できるのさ。


もう、


アイツには関係ないのにな。

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