引き払えぬ部屋
四年以上も過ごしたこの部屋を、
とうとう片付けなければならなくなってしまった。
想い出だけしか残されていないこの部屋は、余りにも俺逹が息づいていて身動きが取れない。
何もかも全てが俺と、彼女との暮らしを物語って、何一つ動かせやしない。
タンスの二番目の引き出しには、未だに彼女のカラフルな下着が、綺麗に畳まれて整然と並んでいるのだ。
色違いのメットに張ってある星印のステッカーはタンデムでツーリングに出掛けた回数だ。
本棚に並んでいるのは、料理や食器、化粧や宝飾品の本と分厚いアルバム。
机の引き出しを開ければ、彼女が毎晩書いていた日記が息づいている。
二人で話し合い、期日を決めて身一つだけでこの部屋を去っていった彼女と俺の無念は、今日まで何も動かさず、手を付けないままで残してしまった。
あれから半年の時間が、この部屋の全てに降り積もっている。
別れなければならなかった理由など、今となっては戻す力を持たない俺の非力が許すしかない事をネジ伏せてしまっている。
それでも、有るべき物がそこに有る安堵に心が落ち着いていたのは確かだった。
掃除をしてくれた主を失ったこの部屋は、時間と言う名の埃があらゆる場所を白く濁らせ、俺の視界をも曇らせて来る。
片付ける為に手にする品々は、どれ一つ取っても、重く切なく物語りが映像化されてしまう。
それは、ある種の精神的な拷問の様で、確実に俺の心を削り落として行った。
何を遺して、何を棄てるべきなのか?
そんな判断など、痩せ細った心で見極めなど出来やしなかった。
抱える力を失った両腕は、込み上げる想い出に潰される胸を守るだけで精一杯だった。
相変わらずの役立たずの俺は、
この部屋を棺にする覚悟も出来ず、
さりとて、大切に留める事もしないで、ただただ座り込んで時の埃に埋もれて行くだけだった。