敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

金がモノを言う




ウォールナットの一枚板でできたカウンターテーブルの向こう側に、ちょい足し料理を追加できるように、ちょっと小ぶりのキッチンが設えて(しつらえて)ある。


広さ的には、一人暮らし用の広めのアパートに備え付けてあるキッチンと同程度の、普段使いでも充分なスペースのキッチン。


鼻歌混じりに何やら料理をこさえているエプロン姿の彼女の髪型は、長い黒髪をお団子にまとめててっぺんで括った玉乗せタイプのひっつめ髪。


髪をきつく縛っている為か、目尻がキリッと吊り上がって、楽しそうな鼻歌とは少しミスマッチに見えるのだが、口元は確実に料理を楽しんでいる様子で口角は笑顔を示していた。


今週の中頃に俺の誕生日があるので、当日には会う事ができない俺の誕生日を前倒しで今日、祝いたいと話が落ち着いたのだった。





付き合い出してから2年の年月が経っていた。

妻子ある身の俺は50歳の大台に乗って、勤め先では中堅層を抜け出してベテランと呼ばれるようになり、出張中の行動や工程などは自己管理の元で、売り上げさえ停滞しなければ自由な時間を作る事ができる身の上だった。


一方、彼女、ひろみの実家は資産家でお金には一切困る事なく贅を尽くし自由気儘に育て上げられて来た。

そして今は、これからの人生だけでは使い尽くせない程の財産を数年前に相続し、

身内や知り合いからの妬みややっかみに心を患ってしまった40ちょい手前の独身女性。


二人は縁あって、成るべくして成ってしまった不倫関係だった。




子羊の何処とかの部位をなんちゃらして、どっかの外国風にどうのうこうのう。

の料理が、ロイヤルなんちゃらの高価でカラフルな皿に乗りぃ~の。

サントリーの何年物のシングルモルトが、一個ん万円もするバカラのグラスに注がれてたり、甘ぁ~い薫りを振り撒くロウソクが焚かれたりの、どっかの貴族かい!って突っ込みたくなる様な豪華な手料理がチェリーウッドの一枚板のテーブルに並べられていた。



いやいや、前回の誕生日の時には、確かマックで好きな物を好きなだけ注文していいよ。

奢って上げるから。

とか言われて、ハンバーガーとポテトをしこたま食べて気持ち悪くなった記憶があるんだけどな。


あれは、あれだけ頑張っても一万円は越えてなかったよね。

でさ、今回のこのお肉にしたって、皿にしたって、酒にしても、そのグラスだって、単品の価格だけで数万円の代物じゃね?



この一年間に俺達の間に何かあったっけか?



俺には、貧乏な家庭で育って来たプライドがあった。

収入が低いからと言って、自分の彼女に自分の財力を見下して欲しくはなかったから、

俺は、彼女が俺の為に金銭を使う事を極端に嫌っているんだ。


デートの時の食事代は割り勘にして来たし、衣服もプレゼントとして貰うのではなく、ちゃんと自分で支払って来たのだ。


彼女からのほどこしや哀れみなどは一切受けたくはなかったんだ。




「ねぇ、今回のお招きに当たって俺が支払った食材費は五千円だったよね?

このお肉やサラダ、スープにケーキやお菓子とか、飾り付けを見る限りでは、五千円どころか五万円以上は軽く掛かってるよね?

食器やお酒まで諸々を入れたら五十万円でも足らない代物だよね。」


確かに、俺の誕生日を祝いたいと思ってくれる彼女の心根は有難いし、嬉しいのだが、


俺は、彼女の財力に狂わされてしまった経済観念を俺に対して当てはめてしまう事が許せなくなってしまって、ほんのちょっとだけ語尾を荒げた感じで言ったのだった。



すると彼女は、大きな一枚板でできたテーブルの直ぐ横につかつかと歩み寄り、身に付けているエプロンやら下着の全てを脱ぎ去ったのだ。


「今日のメインディッシュはね。」


一糸纏わぬ全裸の状態で俺の真横に立った彼女は、するりとテーブルに腰を掛けて、こともあろうか、俺の目の前にその裸体を横たえてしまったのだ。


「いったい、どうしろって言うのさ。」


「今日、私が貴方の為に用意した物の値段なんてどうでもいいの。

貴方と一緒に美味しい料理で二人で楽しい時間を過ごしたかっただけなの。

だって今日は貴方の誕生日をお祝いするために来て貰ったらのだから。

その為に、私がどれだけお金を使ったとしても、貴方からはちゃんとお金は貰ってるもの。

この時間に貴方が喜んでくれないのだったら、貴方から貰った五千円さえも意味がなくなってしまうでしょう?

貴方の支払ってくれた五千円は、そこにあるメロン一切れの値段だけなのかも知れないけど、

今貴方の目の前に居る女は貴方からどれだけの充実や恩が与えて貰っていると思っているの?


今日は、貴方が嬉しい、ありがとうって言いながら、私のこの体にお金には変えられない普段よりも楽しい一時を返してくれるんだとばかり思ってたのに。」





その夜俺は、彼女が使ってしまったであろう金額以上のお返しを彼女の身体に対して有り難く返済したのであった。


その返済方法の詳細は、機会があれば、


いづれ、また。







なぁ~んソレ!

なんでも書けば良いってもんじゃないよね。

ハーフフィクションなんだけど、こんなのダメだよね。

×

非ログインユーザーとして返信する