敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

その曲はまだ


その曲のイントロが流れ出した途端に
否応なしに去来する走馬灯から逃げ切れず、
手にしたタンバリンを膝で握り締めていた。


ダメだよ、
その曲を君が歌うのは止めて欲しい
嫌だよ、
君のその声で熱唱するのに俺は耐えられない
切なくて、
脳みそがバグって涙がちょちょ切れそうになってる


言ってなかったよね
その歌は
以前付き合ってた彼女が好きだった歌


ちゃんと完璧に歌い切れるまで
何度も何度も練習に付き合わされて
段々上達していく彼女と喜び合って
歌い上げられるようになったんだ



他のどんな歌だって一緒に盛り上げられるけど
その歌だけは
君が歌う事には
今の俺には耐えられないんだ




今の俺にとって
一番大切で大好きな君だけど
まだ触れては欲しくない
治療が必要な
デリケートな傷口なんだ


比べてはいけない二人
偶像化された美しい記憶が
芋焼酎片手に大口開けて
熱唱してる君が勝てるわけないんだ


流石に泣きはしないけど
同じ土俵での勝負では
君には分が悪すぎるよね


そんな
今ここで考えてはいけない
並べてはいけない二人として
思い浮かべている俺


まだ歌って欲しくないその曲
君が越えられないとは思いたくない
けど
今君を思っていたように
あの頃の俺も
彼女以外の彼女なんて
絶対にありえなかった




今はまだ君には覚られたくないんだ




その曲は
俺をまっすぐ見つめながら
彼女のあの声で
その歌詞の語る思いのままを
歌い掛けてくれたんだ




いつかきっと
ちゃんと話せるようになるからさ
それまでは


ごめんね


君はまだ
そのポジションに居て欲しいんだ

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