うだうだ独り言 4
星空を眺めているのが好きな娘だった。
特に今夜のような特別な天体ショーの場合には、一際テンションを高くして準備を整えてたりしていた。
自宅マンションのある街はきらびやかでバカ高い高層ビルが立ち並んで、昼夜を問わずに灯りが絶えない様な都会なので、テラスに出たとしても夜空にはぼんやりと悲しそうな月が見えているだけで、そうとうにコンディションが良くなければ、そのテラスには一等星すらその輝きが届きはしなかった。
なので、俺の出張などにくっついて来て、地方の澄んだ空気の夜などには、ちょくちょくと星空を眺めに出掛けたものだった。
とは言え、ど近眼の彼女。
裸眼では、星空は愚か、隣にいる俺の表情すら読めずに大ボケをかましたりもして楽しかったのだ。
普段はコンタクトを着けているのだが、お風に入る前には外して、それからは裸眼の状態いるのが普段の彼女の生活だった。
しかし、今夜の様な特別な夜には、コンタクトレンズをした上に、その視力を補う為の眼鏡を掛けて1.幾つかの視力にまでパフォーマンスを向上させたりもしていた。
だけど、今夜は、、、
月を見ようと言って、マンションの屋上に誘い出した時の彼女の後ろ姿は、
もう既に俺の記憶の一角に確りと残されてしまっている。
あの定まらない無秩序な風が吹く、白く冷たい無機質なコンクリートの天空の片隅に、長い髪を散らばせ消え入る様な心を抱えて佇んでいた彼女。
せめて今夜、
彼女がかの場所に立ち、
似合わない眼鏡を掛けて、
夜空を眺めてくれたのなら
俺は、ほんの少しでも救われたのだろうか?
しかし、もはや、その事に関しての情報などは一切、俺の耳には届くはずはないのだ。