敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

奇跡の声


そこだけにスポットライトが

当たっていた。

土曜日の昼下り、

人混みで混雑してた横浜駅の

地下街で空耳だと思った。

と言うよりも、

全くの空耳だった。

此だけの喧騒の中で、

俺の名前を呼ぶ声が

聞こえて来たのだ。


しかも、

数秒前に降りて来た

背後の階段の方から。


距離的にはかなり離れた、

階段の中腹辺りから、

俺の背中を目掛けて

投げ掛けられた俺の名前。


そんな筈は絶対になかった。


この雑踏の中で、この距離で、

この横浜駅の地下街の喧騒の中で、

しかも、

みさえの声がする筈が無かった。


だが、

空耳だと信じつつも無駄に

振り向いた俺は、

幻を目の当たりにしたのだった。


こんな場所に居る筈のない、

昔の彼女、

みさえが立っていた。


懐かし過ぎる

明るく眩しい笑顔は

半径10メートルにいる

モブ達を排除し、

当てられたスポットライトを

全身に浴びて光輝いていた。


そんな筈はなかった。


もう一年以上も前に別れて、

今は神戸の自宅近くのアパートで

一人で淋しく

暮らして居る筈だから。


こんな横浜駅の

地下街に現れる筈は無かった。


しかも、

この距離では例え怒鳴ったとしても、声の届く距離では無かった。


夜遅く終電近くの時間帯ならば

未だしも、

この人混みの時間帯の

真っ只中で

怒鳴った訳でもない

みさえの可愛い声が、

ここまで届く

なんて絶対にあり得なかった。


そう言えば、

こんな現象は以前にも

あったなと、

ふと思い出した。


聴こえる筈のない距離から

俺を呼んでいる彼女の声が

はっきりと聞き取れる。


不思議で説明の出来ない現象。


声が音ではない伝達手段で、

物理的距離を経て俺の元へと

届けられる。


それはテレパシーなのかは

分からないが、

明らかに、

彼女の俺を呼ぶ思いが

起こす奇跡なのかも知れない。




もう26年経ちました。

あの街は、

すっかりと活気を取り戻し

今日と言う日を

迎えている事でしょう。

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