敗北者のブログ

長年生きて来たぢぢぃの独り言

書いてみた


このサイトの中には、文才に溢れている文客の方々が沢山居られ、その才覚に触れる度に俺の作文力の無さを痛感している。

情景の描写や心情の細かな機微を思いもよらぬ角度から比喩をして、その情景を見事に文章で表現するその文才に俺はただただ感動するばかり。

と同時に、己の書き残してしまっている駄文を振り返ってしまうと、その上っ面さえトレースができていない、只の文字列の集まりに落ち込みを感じざるを得なくなってしまうのだ。

「俺は、ここにこんな汚ならしい物を書き残しても良いのだろうか?」

そんな疑念に駆られ、どうにもこうにも何かを投稿しようと言う気にはなれなくなってしまった。

なので「俺は読む側に徹しよう。」と思いたち、それからは幾つかのサイトを読み漁る事に終始したんだ。


うわべすら書き表せもしない、ただ文字列を並べたてているだけの下民は、

人たるものの心情を的確に、色彩鮮やかに情景描写をされる方々の才能に触れながら、

もう少しましな「何か」を探しております。









震えながら差し出された彼女の左手を、

そっと添える様に支えた俺の両手は、

彼女の緊張以上に怯えていたにも関わらず、

震えてなどはいなかった。



だからと言って、戸惑いを隠す余裕など全くなく、

彼女の震えている手を取った俺の手のひらは氷の様に冷えているにも関わらず、手汗でびっしりと濡れていたんだ。



今、俺の親指と人差し指の二本で摘まんだ指環は、気に入るデザインをと何度も二人して専門店へ足を運んで、しっかりとそこへと落ち着く物を、似合った物をと迷いに迷って吟味した指環だ。




この、表面にMのイニシャルが浮き彫りにされた小さな指環を少し開かれた薬指に差し込む事の意味を考えた時に、

急に右手側の多くの参列者の視線が、細かな矢の様に俺に向けて放たれているかの様な痛みにも似た居たたまれなさを感じていた。


お前は、それをするだけのその覚悟を持っているのか?

何処からともなく降り注いでくる、諭しの様な天の声が、たった二本の指先で摘まんでいる指輪をまるで漬物石かの如くに重くのし掛かり俺の右手を強く床下へと抑え込むかの様に沈み込ませようとしている。


陽光の束が隅々にまで神々しさを振り撒いている明るい教会の最前列。

三段ほど高みの小さなステージで向き合って、厳かに、祝福を浴びながら。


「富める時も病める時も、、、

 天が二人を分かつまで、、、」


   「誓います。」


勿論、嘘を吐いていると言う自覚などは全くなかった。

けれど、心の底から愛し合い慈しみ合えるだなんてそんな具体性のない非現実的な誓いの言葉に対して、この場で同意などできるわけはないんだ。


しかしながら、俺はほんの数分前に確かに神の前で誓ってしまっていた。

そんな覚悟や自覚など俺は、この場に立つまで一切考えては来なかった事に、今更ながら気が付いてしまったのだ。


今、ここでこうして我に返ってみれば、俺は一体今まで何をして来てしまったのだろうか。


沢山の友人や親類縁者をこの場に招いて盛大な催し事の中心に立ち、神の御前で誓いを立てた挙げ句に、

茶番にすら思える、この指環の交換と言う儀式を直前にして、あの頃の俺に立ち戻ってしまうとは。







騎乗位の態勢で上から涙の雨を降らせ、握り締めた婚姻届を俺の胸板に押し付け、早く一緒になりたいと泣き叫んでいた登志美ではないんだ。


学祭でミス○○高校の栄冠を獲得したほどの美少女と四年半もの年月を共に過ごして来た。


彼女はまだ高校生だったにも関わらず、

「若くて可愛いお母さんになりたい。」と

言い、避妊をせずに交わり続け、反対する両親に対して規制事実を作ろうとするような無茶な、それでいて真っ直ぐな芯の通った女の子だった。







目の前にいる美紗絵の表情を読み取れずに、俺はただ、彼女の口から吐き出される聞き慣れない言葉屑をどうにか丸めて捨て去ろうと算段をしていた。

実態のない汚れた言葉屑は拾い上げようとして手で掴んでも、どうにも手触りの感触が刺々してて気味悪くて持つ事が出来なかった。

そうしている内に、彼女から垂れ流され続けていた、悪態を含んだ言葉屑には、どうやら言霊の類いの決意が込められているらしく、それをまともに被曝してしまっていた俺の心はいつの間にか湿度に晒され続けていた綿菓子の様に無惨な萎み方をしてしまったようだった。


五年間に渡り、お互いに愛し合い慈しみ合って来た同棲生活を終わらせ様とする美紗絵の精一杯の悪態が彼女の真の姿ではないと十二分に承知していたとしても、

五年間に渡り、聞き馴染んできた俺の心に直接響く彼女の音声がこれ程までに毒々しくも苦くなってしまうだなんて、思いもしていなかった。


最早、彼女の本心は、被っているであろうその般若の面の何処からも漏れ出したりはしていなかった。


みっともなく惨めに縮こまり、泥足で踏みにじられてしまった綿菓子の様な俺の精神は、甘味をも失い汚ならしく冷たい地面にへばり着いて、泣く事すら出来なくなっていた。


それ以来、時間の観念を失い、

一切の音が消え失せた部屋に陽光と月光を数える事なく座り込んで、幾つ歳を取ったのかさえも分からないままに、

膝に乗せた顔が見据えていたのは、汚れた足の指先で身の程をわきまえず、野放図に伸びてしまった足の爪だった。


「おぉ~い美紗絵、足の爪を切ってくれないかぁ~っ。」と呼び掛けた積もりでいた。

だが、動かずとも舞い積もる埃やカビは生きている為に繰り返す浅い呼吸でさえ肺や喉を痛め付けてしまって、俺は掠れた雑音にすらならない呻きを溢していた。


それから、何処に自身の心を置いて来てしまったのかは分からない。

何を食べ何処で寝て何をしていたのか、身体が自分勝手に生き伸び続けていたんだ。





全ての生も性も精も省も声も清も勢も正をも、全ての「せい」を失ってしまった、あの荒んだ気持ちのままで拒む心を忘れてしまっていた。






ふと気が付けばいつの間にか隣にいて

ほとんど俺には興味のない話題をニコニコと楽しそうに話し掛け続けてくれていたこの彼女。

気遣いもなければ優しさの欠片もない脱け殻は過去に生きて来た習性に従うかの如くに惰性で生き、

纏わり付いて来るそんな小さな優しさのあしらいは無意識の内にできていたはずだったのに。


多分、身体が欲しがっていたのだと思う。





「ねぇ、妊娠しちゃったらどうする?」

何度目かの事を為してしまった後の、いつもの明るく軽い口調での問い掛けに対して、

「だったら、結婚しちゃえばいいじゃん。」

言い訳でもない、言わば、冗談半分の逃げ口上として発した俺の迂闊な一言が彼女のモチベーションを爆上げしてしまったんだ。


それからの二人の仲は、と言うか、彼女の気持ちは、この場のこの儀式に向かって一直線に突き進んで来てしまった。


俺が発した迂闊な言葉の裏を読まず、そのままの意味を真っ向から受け止めて、疑う事をしないままに、真っ更な心を持って彼女は今ここにいる。


いや、彼女に対して決して不満などありはしない。


いいや、寧ろ、俺には過ぎた女性だと、本心から思ってはいるんだ。


だけど、明るく朗らかで人間的に尊敬できる可愛い女性であったとしても、

ここまで俺は彼女を恋愛対象として見た事は一度もなかった。




大きな一枚ガラスの窓の外には、昼下がりの暖かそうな陽光に木々の緑が溢れている。

窓の両脇には目に鮮やかな色とりどりの生花が華やかに飾られ、高い天井の遥か高みには厳かに十字架が掲げられている。




いったい、この女は誰なんだ。

自らに問い掛ける心の声が、聖堂の中に響き渡る。





思えば、中学の頃には小夜がいて、高校時代には歩美がいて、大学には登志美、そしてついこの間まで美紗絵がいた。

その、どの彼女達もが、この、こんな腐り切った馬鹿な男に対して、多分、心からの真の声で結婚をしたいんだと訴えてくれたんだ。



俺は今、こんな華やかなこの場に立って、この彼女と向き合い、あの彼女達が望んでいた結婚式を挙げ、二人でこさえた指環を交換しようとしている。


それぞれ一人一人の彼女が俺の名前を呼んでいる声が、この厳かな聖堂の中に響き渡っている。




俺の名前を呼ぶ、その声色には、




何故か、




俺には、




祝福を感じられなかったんだ。











何がいけないって、起承転結の構成を組み立てられないし、伏線を散りばめもしなければ、その回収の仕方も分からない。

なので話しとしての面白味がないんだな。

多分、長々と書いて、その文面を時間を掛けて読んでしまった後に、「無駄な時間を費やしてしまった。」と苛立ちを感じてしまうであろう毒文なんだろうと自覚はしているんだ。


ここまで読んで下さった方々の心中をお察し申し上げます。



ごめんなさい。

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