虹の天使
虹に天使が腰掛けていた。
「ねえねえ、貴女は何処から来たの?」
明るいトーンの声と屈託のない笑顔に
女は視線を合わせないまま俯き
立っている足元に向かって応えた。
「どうして、そんな事を聞くの?」
「駄目だよ、質問に疑問で応えるのは
ルール違反だよ。
さあ、ちゃんと私の質問に応えてよ。」
女は顔を上げたが、天使を見る事なく
虹の麓に体を向けて、
「あっち」と指差しただけだった。
「駄目だよ、嘘は直ぐに解るからね
私は天使なんだよ、なんでも分かっ
ちゃってるからね。」
「知ってるのなら何故聞くの?」
女は少し剥れた顔で天使を睨んだ。
「あっ、やっと目が合ったね
話しをする時はちゃんと目を見て話そうね
そうしないと言葉は相手に届かないし
気持ちが正確に伝わらないよ。」
「私に説教がしたいわけ?
こんな所で呼び止めて、何の用事かと思えば、目を見て話しなさいなんて子供じゃないんだから、いい加減にして欲しいわ本当に。」
女は自分の心の疚(やま)しさに気が付き初めていた。
彼女はほんの数日前に三年間付き合って来た彼と別れて、今日はその傷心旅行に行こうとしての途中の道程だったのだ。
「ん?あはぁ!気が着いたよね。」
天使は薄れ始めた虹からフワリと舞って女の前に降り立った。
女は目の前に舞い降りた天使と真正面に向き合い視線を合わせていた。
「そうだよ、そうやってちゃんと向かい合って、思っている事をしっかりと言葉にして伝えなきゃ気持ちなんて伝わらないし、そんな事に素直に成れないのなんて、絶対に損なんだよね。」
女には、その天使がなんの事を言っているのかが痛い程判った。
「全部、私の事は全部知ってるの?」
「きゃはっ、そうだよ、だって私は天使なんだよ。
貴方達二人を巡り合わせのも私、
弓矢を遣って恋に落としたのも私、
そして今、二人に後悔させているのも私だから出来るんだよ。
ねえ、彼の元に戻ってみてよ。
そして今の、その思いを素直に言葉に託して話し合ってみてね。」
「言いたい事はいっぱいあるのね、
だけど、本当に愛されているのかが
不安で、嫌われたく・・・・・・・
なによ、お説教だけして、消えちゃう
なんて・・・・・」
女が見上げた青空には、ドーナツよりも
少し細い、真っ白な雲がまあるく
ポッカリと浮かんでいた。
それはまるで天使が忘れて行った輪っか
のように、眩しく輝いているのだ。