一握の砂
しっとりと
涙をすへる砂の玉
涙は重きものにしあるかな
命亡き砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
石川啄木
一握の砂 より
砂とは、貝殻とか、石や岩の様ないわゆる岩石が風雨や波や自然現象に寄って細かく砕かれた物であって、そこに心とか意思や気持ちなどは全く存在しない物質。
例え、砂浜を訪れた一人の人間の心情がどう有ろうと、そこにある砂浜の砂に心などありはない。
もちろん命なども在る筈がない無機質な砂を、悲しみに明け暮れた衝動で握り、持ち上げてみても、砂は指の間からサラサラと零れ落ちて行くばかりだった。
そこに、無限とも思われるほどに在る砂のたった一握りですら、この悲しさを癒してくれはしなかった。
俺はいったい何の為に、この砂浜に来たのだろうか。
指の間から零れ落ちて行った砂。
握った掌に留まった幾ばくかの砂粒の数ほどの思い出が脳裏を去来する。
ならばいっそうの事、全てがこの手の中から零れ落ちてしまえばいいのに。
開いた手の平に残されている砂粒の数以上に、抱え切れない数の笑顔やその言葉や仕草となって俺を打ちのめす。
動かぬ心を表情に現し、能面の如くに心死す。
我、無表情にて涙に溺れし。
何度も二人で訪れた、同じ風景のはずなのに。
あの時と何も変わらない砂浜の景色のはずなのに、
足元を掬う砂の煩わしさ、重たさったら、泥沼の様に滑りやがって、思う様には歩めやしない。
なぁ、啄木よ。
あんたはどんな思いで書いたのさ。
こんな無学な俺にも解るように書いてほしかったな。